ヘッジホッグ、汗と涙のワーホリ物語 No. 13
「コーラはどこへ消えた」

イギリスに着いて1日が過ぎた。目覚めるともう昼12時になっていた。昨日は疲れから14時間も寝てしまった。寝過ぎだろうか、やや体がだるい。のども渇ききっている。寝ぼけ顔で洗面台に行き、顔を洗ってキッチンへ向かった。昨日買っておいた2リットルのコカコーラを飲むためだ。

「1 buy 1 get free(1本買えばもう1本はただ)」よくこっちのお店が使う広告だが、まんまと乗せられて買ってしまった。1本は冷蔵庫へ、もう1本はお米やジャガイモなどみんなが貯蔵庫として利用しているスペースに置いた。

それにしても冷えたコーラはおいしい。渇いたのどはシュワシュワという炭酸ののどごしとともに、すっきりさわやかにしてくれる。生ぬるいコーラではこの感覚は味わえない。しかし、パキスタンの3人組は昨日も買ってきたばかりの生ぬるいものをパキスタンの主食ジャパティのお共にしていた。

キッチンでコーラを飲んでいると、「おはよう、ヒロ!今時間あるかい?」いつものインドの方の人達が着る袴のような衣装でパスカルが尋ねてきた。「いいけど、なにがあるの?」不思議そうに僕は彼に質問をした。「いや、家族会議を開こうと思うんだ。」「家族会議?!」そんなに重要なことがこの家にもあるのだろうか、半ば不信感を抱きながらダイニングへ向かった。もう既に、他の皆は集まっていた。

「ようこそ、皆さん集まってくれました。では、早速、家族会議を開きたいと思います。」流暢なしゃべり方でパスカルは会議をスタートさせた。この様子から、この家族会議というものが今日初めてでないのだと悟った。「では、初めに掃除当番を決めたいと思います。ダイニングに2人、キッチン1人、バスルーム1人に廊下と階段に1人で行きたいと思います。なにも異議がなければ、このままで行きたいと思いますが、皆さんどうですか?」

何か、小学校時代の学級会の時間を彷彿させるような流れだ。学級委員長のパスカルは僕ら個人個人にどこを掃除したいか希望を聞き、結局僕とルームメイトのヨンジンがダイニング担当になった。他にもいろいろと決まったので、下にまとめてみた。

1 掃除は週1を原則とし、毎月ローテーションで担当場所を変えていく。
2 電気代はみんなで割り勘とし、月々5ポンド払うこと。
3 家庭用品(トイレットペーパー等)も毎月一人5ポンド払うこと。
4 何か問題があれば、いつでも臨時家族会議は開かれる。ちなみに毎月始めに定期的に家族会議は開かれる。
3の買い出しはフィリップとパスカルが行く。

30分くらいの会議の後、帰国後最初のUK-Jへいった。トシさんもアキコさんも元気そうでいろいろ日本でのお話をしたが、こっちに来る前に学校に連絡が取れなかった件で、こちらの留守電に学校に確認の電話を入れてもらえないでしょうか、というメッセージを残しておいたので、僕がうまくこちらに着いて家が見付かったかどうか心配していたようだった。僕がイギリスに着く前に学校のアコマデーション担当のあのウェンディーにUK-Jから連絡をとってもらっていたのだが、彼女の返事ときたら相変わらずのものだった。

「大丈夫よ。ヒロは十分ここサウスホールのことよく知ってるから心配要らないわよ。」
まったく、もし僕の身に何かあったらウェンディーはどうするつもりなんだろう?
時々、ウェンディーの楽天的な物事の考え方に感心してしまう時がある。

さて、家について昨日貯蔵庫に置いておいたコーラを冷蔵庫にしまっておこうと見てみると、なんと違うメーカーの物にかわっているではないか?!「コー、コー、コー、コーラが変わってる!!!!」
思わず日本語で叫んでしまった。すると慌ててフィリップが僕の声に駆けつけてやってきた。
「いったい、どうしたんだ、ヒロ。」
「昨日買っておいたコカコーラが消えているんだ。」
フィリップはダイニングにいたパスカルに事情を話すと、彼は慰めるように話し掛けた。

「ヒロ、ぼくらは知らないけれども、さっきまでヨンジンが韓国人友達を連れてきていたからひょっとしたら彼がだしたかもしれないなぁ。一度彼に聴いてみるといい。でも、そんなにコーラを飲みたいなら僕らのをあげよう。」
パキスタン人達が別で使用している冷蔵庫の中から、半分飲みかけの一本のコカコーラを取り出した。

(あれっ?!)僕はピンときたので、彼らに尋ねてみた。
「そのコカコーラはどこから持ってきたの?」
「あぁ、これかい。これは貯蔵庫にあったものを昼のご飯の時に飲んだんだ。」
「僕の探しているのはコカコーラなんだけど......」力無しに迫ってみると、
「ヒロ、いつもぼくらはどのメーカーのコーラを買ってるか知らないんだ。もしかしたら間違って飲んだかもしれないなぁ。ところで、このコカコーラ飲むかい?」
完全に物事をあやふやにされてしまった。

こういった事件は今日だけですまなかった。時には、油を使われるは、僕が買った鍋を勝手に卵を茹でるためにアクターが使ってるは、お米も少しずつ減ってるは、さらにカレーを作るために炒めていた玉ねぎを、僕が手を洗っていて目を離している間にフィリップは自分のスクランブルエッグに入れるために、半分勝手に持っていってしまっていたり多々そのような事件が起こった。

そんなある日、ヨンジンが韓国から持ってきたコンピュータを、ヨンジンがいない間に部屋に入ってフィリップが使っていたので、ヨンジンはそれをやめて欲しいと抗議した。すると、明くる日からダイニングのテレビが消えてしまっていた事件があった。そして、初の臨時会議へ突入した。

まずフィリップらはテレビを隠した事について説明をした。
「ヨンジンが自分のもの(コンピュータのこと)を使って欲しくないと言ったから、それを言われた方の気持ちがどんなものか、テレビを隠して分かって欲しかった。だから、隠したんだ。」

自信を持って彼は話したが、よくよく考えれば、そのテレビは彼らが買ったものでは
ない。よくもまぁ、そう言いきれるなぁと僕は聴いてて呆れてしまった。そしてヨンジンは、こう反論した。
「コンピュータを使うことは、悪いとはいわない。ただ、僕とヒロのいない間に部屋に勝手に入るのだけはやめてほしい。」

この意見は僕も賛成だった。もし、万が一、僕らが居ない時に物が無くなったら彼らを最初に疑わざるおえなくなってしまう。できれば、疑いたくない。だから、早めにきちんとしておくのは正しいことである。しかし、パスカルらはそれを聴いて、

「ヨンジン、僕らは悲しいよ。君が、そんなふうに考えているなんて。それじゃぁ、僕らがまるで泥棒みたいじゃないか。僕らはひとつ屋根の下に共に暮らす家族だろ。」
続けるようにフィリップは、
「ヨンジン、このまま一つの家族として僕らと過したくないなら、僕らもそう接するつもりだけどね。」

彼らは、やたらに家族、家族という言葉を頻繁に使うが、考え様によっては単なるなんでも使わせろと強要してるようなものじゃないか。まるで人気アニメのキャラクター、ジャイアンのような「お前のものはおれのもの、おれのものはおれのもの」的、発言ではなかろうか。

僕は自分の不満も兼ねてヨンジンをバックアップするために彼らに言ってやろうとした瞬間、
「僕が悪かったよ」とヨンジンが口を開いた。さらに、
「これは僕のエゴが起こした問題だ。自分の物を人に使ってもらいたくないという狭い気持ちに問題があるんだ。ごめんなさい、フィリップ、パスカル。」

(おい、おい)そんな答えが返ってくると思わなくて、僕はビックリでガッカリしてしまった。確かに、ヨンジンは韓国で牧師のアシスタントとして働いていたので、彼がそう答えたのもわからなくはない。しかし.....。
不完全燃焼な会議は、最終的に無断で僕らの部屋に入らないことだけは認めてもらえた。

これで良かったのだろうか。中東からインドにかけた人達によく、人のものと自分のものの区別がないことがある。日本人が妙にきちんとし過ぎるのか、それとも彼らが物的感覚がかなりずれているのか定かではないが、今回の事件を通してもっとお互いの文化の違いを話し合い、互いに譲歩しあう必要があると感じた。さらに、言いたい
事をはっきり主張したヨンジンと、言いたい事をいいきれない自分の差が、とても恥かしかった。

部屋に戻って、ヨンジンにもう一度尋ねてみた。「ヨンジン、あれでよかったのかい?」
彼は真ん丸顔に笑顔を浮かべてこうこたえた。
「神に尋ねたんだよ、あの時。そして、あれが正しい答えだったんだよ。」
続けるように彼は、"Good Night"といい深い眠りに入った。僕は、2、3度深いため息をつき横になった。とても長い夜、不思議となかなか眠りにつくことが出来なかった。

つづく




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